想像を超える「福島時間」への招待状——まだ知らない福島県観光の深層へ
ふとしたきっかけで「福島って、どんな魅力があるんだろう」と調べはじめた自分。気付けば調査に没頭し、国内のみならず海外観光客も惹きつける理由を知ることになった。
有名な鶴ヶ城（若松城）や五色沼湖沼群、花見山公園といったスポットはもちろん、雑誌やネット検索で出てくるランキング上位の名前だけじゃ語り切れない、深い個性がこの土地には詰まっている。
季節ごとの表情や地域特有の文化背景、リゾート・温泉・グルメまでもが渾然一体となった多層的な魅力。実体験に基づき、しかも可能な限り知られていない個性的な視点で、福島観光の“本当の醍醐味”に迫っていく。
…なぜ福島県は、これほどまでに人を惹きこむのか？深掘りすればするほど「訪れて体感しなければわからない何か」がそこにあった。その全貌を、斜め上からも横からも“徹底的”に案内したい。
鶴ヶ城（若松城）——会津の魂を宿す赤瓦の天守閣、その歴史と進化
会津若松駅のロータリーからタクシーで7分、20代の僕が初めて目にした鶴ヶ城（若松城）は、どんなパンフレット写真よりも鮮烈なリアリティで目に飛び込んできた。
何よりも印象的だったのは、ぎらりと光る「赤瓦」の存在感。国内では唯一という、日本全国を旅した自分でも初体験の“赤い天守閣”。
この色の正体は戊辰戦争を生き抜いた会津魂の象徴であり、修復を重ねてきた歴史をも物語る。国の史跡に指定される理由が、外観の重厚感だけでなく、時代のうねりを体感できる空気に宿っているようだった。
敷地内は約14万平米—つまり東京ドーム約6個分。中に入ると質の高い展示が並ぶ。特に圧巻だったのは、戊辰戦争関連の資料と、幕末サムライたちの精神的“熱量”を語るパネル。自分の歩く足音すら、まるでタイムスリップした感覚だ。
そして春の桜、秋の紅葉、冬の雪景色。どの季節も地元民だけでなく全国から訪れる人を魅了し続ける。僕自身は一度、14年の11月下旬に家族で訪れた。紅葉残る公園でのんびりしていると、偶然近くで野点（屋外お茶会）イベントが開催されていた。普段味わえない“武家式おもてなし”には、感涙必至。
アクセス・城下町グルメとの相性に感動
会津若松市内はとにかくコンパクトで、鶴ヶ城から徒歩圏内に郷土料理の老舗や小粋なカフェも豊富。城見物とあわせて、ぜひ牛乳屋食堂で会津ラーメンを食べて欲しい。甘めのスープと独特の縮れ麺がここだけの味わい。（“会津ソースかつ丼”も必食だが、食べ比べは胃袋と要相談！）
会津の時間が“生きている”現場体験
何気ない平日午後でも、地元小学校の遠足に出くわすこともある。ガイドさんや歴史好きの旅人に声をかけてみると、新しい時代解釈や、マニアックな逸話がぽろぽろ飛び出してくる。観光地なのに、いまだ“生きた歴史の現場”がここにあることに気付いた。
五色沼湖沼群——地球が描いた色彩アートと裏磐梯エリア徹底案内
裏磐梯に点在する五色沼湖沼群。じつは私は真夏と晩秋の2度、五色沼探勝路を歩いたことがある。夏は鮮やかなエメラルドグリーンがきらきら反射して、心臓が跳ねるような高揚感。秋は真紅や黄金色の森が湖面に溶け出す。
この景色の変化は写真だけではわからない。実際に目の前で光と影、風の動きとともに“ごく僅かな季節の違い”でも湖面の色彩が少しずつ変化する。会津富士と呼ばれる磐梯山を借景にすれば、日本でも指折りの“神秘的空間”が体験できる。
また、五色沼探勝路は1周約4km。アスファルト舗装でなく自然の道なので、スニーカー必須。途中で何度も休憩したくなる絶景が続くため、体力よりカメラやスマホの充電の方が心配になるかも…。
ルート上では“伝説の大物主（ヌシ）”のエピソードを地元のお年寄りが語りかけてくれたり、運が良ければカワセミやアカゲラの声も聞ける。
私は一度だけ、突然スコールのような雨に打たれて森の中に避難したことがある。雨上がりに広がった霧と虹のコラボ風景は、人生で一番美しい記憶の一つ。
裏磐梯の宿——温泉と食の“たぎる個性”
五色沼周辺には、20軒以上の異なる特徴を持つ小さな温泉宿が集まっている。私が泊まった「裏磐梯グランデコ東急ホテル」は、満点の星空と、郷土会津の地酒がメインの会席料理が自慢。露天風呂から差し込む朝日が、まるで五色沼の湖面のようにキラキラ輝いて無数の色相を見せてくれる。
夏は避暑・秋は紅葉・冬は絶景クロカン
裏磐梯は標高が高く、真夏でも最高気温が30度に届かない日が多い。2023年8月は全国的猛暑の中、裏磐梯では朝晩ジャケットが必要な涼しさを体感した。冬はクロスカントリースキーやスノーシューで、雪原に浮かぶ青い湖面を探すアクティビティが楽しい。
多彩な自然との“距離感ゼロ”の付き合い方が、裏磐梯の五色沼には息づいている。
花見山公園——個人農園が生んだ伝説の桜山、四季の魔法にかかる
福島市郊外に位置する花見山公園。その特殊性は、もともと個人のお花農家さんが“みんなで花を楽しんでほしい”と山を丸ごと開放したことからスタートしている点。
春、約200品種の桜やレンギョウ、ボケ、モクレンが一斉に開花。山一面のピンクや白、オレンジ色に染まる、まさに“生きたパレット”。満開の時期には早朝4時台から観光客が行列する年も。
私が5月連休明けに訪れたときは既に桜は散っていたものの、紫陽花や初夏の新緑が山肌を包み、まるで北欧絵本のような柔らかな雰囲気が印象的だった。
秋の紅葉や冬の雪山もそれぞれ華やか。春以外の季節にゆったり散策したい派には、花見山公園は地元福島市民の“秘密の憩い”として人気だ。
アクセス・お土産スポット＆地元の味
花見山近くでは、旬の果物や花苗を扱う直売所が点在。福島市といえば“桃”や“あんぽ柿”の名産地でもあり、季節限定の“花見山まんじゅう”や“桃コンフィ”もぜひ狙いたい。
市街地から片道約15分。無料シャトルバスや臨時駐車場もあり、混み具合はシーズンによって大きく変わるので余裕ある日程がおすすめ。
アクアマリンふくしま——海洋体験が彩る未来型水族館
私が8月下旬、子供と一緒に福島県いわき市のアクアマリンふくしまへ足を運んだ理由は、“単なる水族館”の枠をはみ出しているという噂があったからだ。
館内は「ふくしまの海と生命の進化」をテーマに、太平洋—黒潮—親潮が交じる環境を模した巨大水槽が圧巻。自分の中で一番驚いたのは、マグロやカツオなどの回遊魚が、海そのままに“サメと共に普通に泳ぐ”ダイナミックな生態展示。
外観・内装ともに設計が近未来的。色ガラスのアーチや、床に“見えない動線”で海流を再現した工夫がちりばめられている。非日常体験として、地元の子供はもちろん大人も好奇心をかき立てられる内容だ。
オリジナルの体験型ワークショップ（磯遊び・釣り体験・漁業疑似体験）も随時行われていて、夏休み限定の“バックヤード見学ツアー”は早い者勝ち。私自身も予約が取れずに悔しい思いをしたが、一度は裏側を覗いてみたい…！
大内宿——江戸の時間軸にトリップできる奇跡の宿場町
会津地方・下郷町に残る大内宿ほど、時間がねじれている場所は日本広しといえど希少。まるで400年前の“祭りの日”に舞い戻ったような茅葺き集落が、今でも日常を生きている。
30軒余りの商家で売られる、名物の“高遠そば”。ここでは何と長ネギをお箸代わりに使って「ねぎそば」を食べる。初体験の口当たりは、期待を超えた不思議な美味しさだった。
冬は雪に覆われ幻想的な景観に。遥か昔の旅人と同じような目線で、現代との“時間差映像”に思いを馳せながら歩ける。着物や甲冑レンタル体験も充実しており、旅の記憶に強烈な彩りを添えてくれる。
祭り・イベントの異常な熱気
毎年2月の「雪まつり」や夏場の「大内宿半鐘まつり」は、地元集落人口の倍以上の観光客であふれかえる。人と人の密な交わりが、現代ではちょっと珍しい“人情の町並み”を形づくる原動力かもしれない。
スパリゾートハワイアンズ——東北の「常夏楽園」はいかに生まれたか？
“日本のハワイ”として名高いスパリゾートハワイアンズ——私が初めて家族で訪れたのは2月の真冬だった。いわき市湯本温泉のリゾート地に、なぜか浮かぶドーム型建築。
入場すればそこは別世界。屋内温水プール、ウォータースライダー、南国ムード満点のハワイアンショー。子供たちから目が離せないほど歓声が響く。
驚いたのが、施設内に“江戸情緒残る大露天風呂”や和食のエリアも設けられていて、温泉–リゾート–異文化体験が融合している点。おじいちゃん世代も孫も、家族複数世代で満喫できるのが特徴だ。
ちなみにここ、もともとは炭鉱の町から生まれた復興プロジェクトの象徴。地元とのつながりや、被災地再生のエピソードに触れてみると、単なる“レジャー施設”の枠を超えたドラマが感じられる。
ハワイアンズダンサーズによる本格的なフラダンスショーも実は必見。手作りのフードやドリンクも多数なので、半日どころか1日中遊び尽くせる。
あぶくま洞——地底世界の真理「悠久と出会う」鍾乳洞探検
“地底探検”という単語を聞いて大人も子供もゾクゾクしない人はいないだろう。実際に田村市のあぶくま洞に初めて足を踏み入れた時、“本能的な興奮”が抑えられなかった。
約1億年前にできたとされる鍾乳石は、日本最大級の規模を誇る。歩くペースによって見える陰影や温度感が変わる。夏は涼やか、冬はほんのり暖かい。
「クリスタルカーテン」など名付けられた特異な鍾乳石群は、光が当たると宝石のような輝きを放ち、地球の数百万年の営みを目の当たりにする。
時々、洞内ライブやコンサートも開催されている。その音響の異世界感ときたら…。言葉では想像できない独特の包囲感だ。
磐梯吾妻スカイライン——四季と疾走の“風”が奏でる体験型絶景道
標高1600m超、“日本の道100選”にも選ばれる磐梯吾妻スカイライン。私は春・秋・晩秋と3度、車や自転車で走破したことがあるが、正直毎回全く違った光景に出会う。
春はまだ残雪。夏は高原の新緑、秋は鮮烈な紅葉、晩秋は一瞬にして草木無き荒野へ変貌。標高による天候の急変がスリル満点だ。
途中の“浄土平”は休憩に好適。星空観察や数種類のハイキングコースも併設されている。磐梯山や吾妻連峰を背景に、深呼吸すれば“絶景の香り”が胸いっぱいになる感覚。車窓だけでなく、ぜひ一度自転車や徒歩でも味わっていただきたい。
会津芦ノ牧温泉・飯坂温泉・土湯温泉——福島は“湯の国”
福島県は実は“温泉王国”でもある。私の特別な記憶として、会津芦ノ牧温泉の川沿い露天風呂は、秋の夜の虫の音、朝晩の川霧がもう極上。心身ともに解きほぐされる不思議を体感した。
飯坂温泉は何と言っても江戸時代から続く老舗の風格。“飯坂ラヂウム卵”という地元名物卵にびっくり。湯上がりの地ビールと合わせれば、福島ならではの楽しみ方ができる。
土湯温泉では“足湯でゆるむ”観光体験が気軽にできる。郷土玩具“こけし”発祥地ゆえ、こけし絵付け体験も大人気。温泉も文化も一度に味わえる。
食の福島——喜多方ラーメンとフルーツ王国の真実
朝7時台に喜多方市街地のラーメン屋で“朝ラー”を啜る体験——この特異な食文化は、旅慣れたグルメ好きにも必ず刺さる。手打ち太麺、あっさりスープ、手作りチャーシューの絶妙なコンビネーション。初体験の時には「ラーメンの概念が変わった」と自らに何度も語りかけていた。
福島市のフルーツラインでは、6月から11月まで季節ごとに桃・梨・ぶどう・りんご狩りができる。地元産フルーツをふんだんに使ったパフェや、路地裏カフェの“地元スムージー”も今や大人気。
秋は“会津米新米”の直売所がにぎわい、レンタカーで走っていると新米のおにぎりや粕汁など思いがけずご馳走に出会えるチャンスも。
福島県観光ランキングの“もっと深い”楽しみ方——編集後記
ランキング上位の鶴ヶ城（若松城）、五色沼湖沼群、花見山公園、アクアマリンふくしま、大内宿などは、いずれも一度は“行って損無し”の名所であることは間違いない。
しかしその魅力は“ランキング”だけで推し量れない。現地で人と交わり、時に道に迷い、お腹を満たし、“予想外との遭遇”を楽しんでこそ、福島旅の真骨頂だと思う。
四季ずれの山や桜、夜明けの温泉街、観光地そぞろ歩きの無防備な幸福感——“体験”あってこそ見える福島の多層性を、ぜひ皆さん自身で発見してみてほしい。
福島を知ることは日本の底力や、人と土地のつながりを知ることでもある。自信を持って断言できる。ここには、まだ見ぬ“感動のストック”が確かにある。
さあ、次の休日は福島県へ。思い立ったが吉日、一期一会の風景に飛び込もう。
